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特許出願をするリスク

三谷拓也 | 2024/02/04
社内から発明が出てきたとき、「特許出願をしないリスク」もありますが、特許出願をすることにもいろいろなリスクがあります。
 

(1)特許を取得できないリスク


当然の前提として、特許出願をしても特許を取得できるとは限りません。
日本の場合、特許査定になる確率はだいたい75%前後で推移しています。
2019年のデータでは、米国は77%、欧州は63%程度です。

すでに他社が似たような発明をしていれば特許は取得できません。


たくさんの知財部員がいる大企業では、自社がどんな特許出願をしているのかを各担当者が完璧に把握するのは無理です。
自社で特許出願済みの過去の発明や、別の事業部が開発した発明と同じような発明について二重に特許出願してしまうこともあります。

いったんは特許出願をしたものの、予算の都合により特許取得を断念することもあります。

新規事業のために大量に特許出願したものの、経営環境が変化したために新規事業を断念することになり、特許出願中の関連案件をすべて放棄することもあります。
 

(2)技術を知られてしまうリスク


特許明細書は、特許出願から1年6ヶ月後にインターネットで公開されます(出願公開)。
したがって、特許出願をすれば、いずれ技術を知られることになります。
特許出願をするということは、技術を公表するということです。

特許明細書は技術情報そのものなので、公開特許公報(出願公開された特許明細書)から他社・他国の技術を学ぼうとしている企業もたくさんあります。

特許出願をするということは、ある程度の技術流出を覚悟するということです。
したがって、何が企業秘密なのかを特許出願前にしっかりと認識し、特許明細書に書いてよい情報と書いてはいけない情報を分けておく必要があります。

(3)開発方針を知られてしまうリスク


公開特許公報により、秘密のプロジェクトを知られてしまうリスクがあります。
たとえば、VRゴーグルの発明について特許出願し、製品発表より先に出願公開されてしまうと、製品発表前に「メタバース市場を狙う」という開発方針を知られてしまいます。
あるいは、特許明細書に新製品のデザインが記載されていた場合、出願公開によって製品発表前にデザインを知られてしまうリスクもあります。

裏を返せば、他社の特許情報を監視することにより、ライバル企業がどんなことをやろうとしているのかを推測できます。
他社の特許情報を活用することにより経営の質を高めることができます。いわゆるIPランドスケープ(知財を活かした経営)の基礎になるのは高精度の特許分析です。

特許情報により、自社がこれからどんなことをやるつもりなのかを積極的に発信するという考え方もあります。
たとえば、X社の新製品についての特許出願が多数公開されれば、他社は同じような製品を開発するのを避けるかもしれませんし、むしろX社の新製品を前提としたサービス(補完技術)を開発するかもしれません。
 

(4)人材を引き抜かれるリスク


特許情報は、技術情報であるだけでなく、人材情報でもあります。

発明をする人は、開発部のエースやホープであることが多いです。
したがって、公開特許公報に記載される発明者から、開発部のキーパーソンをある程度特定できます。
他社の重要出願の発明者をスカウトできれば、自社の技術力を効率的にアップさせることができます。

企業の技術力を決めるのは、究極的には、組織内におけるトップクラスの人材です。

エンジニアにとっては特許出願をすることで自分の価値や能力を世間にアピールできるとも言えますが、企業にとっては自社の重要人物を他社に知られてしまうリスクがあります。

(5)企業イメージを落とすリスク


特許明細書に書いてあることで企業が評判を落とすこともあります(レピュテーションリスク)。

製品とはまったく関係のないアイディア(可能性)として特許出願しただけなのに、それが製品仕様だと誤解されることがあります。

もし、あるパチンコメーカーが、一部の人(女性や高齢者、初心者など)だけ当たりやすくなるパチンコのアイディアについて特許出願したとしたら、このメーカーのパチンコは不公平な仕様になっていると誤解されてしまう可能性があります。
特許出願したアイディアが製品に実装されるとは限りませんが、特許出願をすることでそれが製品仕様であると誤解されてしまうこともあります。

あるいは、特許明細書に「従来製品にはこのような問題があったので、本発明ではこの問題を解決した」と書いてあった場合、既存製品には問題があったというマイナス宣伝になってしまうこともあります。
発明(新技術)をアピールしたいがために、旧技術を貶めるようなことを書いてしまうこともリスク要因となります。

 (6)忘れてしまうリスク


特許出願をしてから特許査定になるまでには、通常ペースなら数年かかります。
通常、特許事務所が期限管理しているはずですが、特許出願していることを忘れてしまいそのまま不戦敗になってしまうこともあります。

特許を取得できても、特許をもっていることを忘れることもあります。
特許を持っていても、本人がそれを忘れてしまったら無意味です。

特許出願をしたら、特許事務所任せにせずにエクセルでいいので自社でも管理した方がいいです。

(7)特許出願が知財戦略を阻害するリスク


発明A1について特許出願をした場合、発明A1はいずれ出願公開されます。
発明A1の出願公開後、発明A1に関連する発明A2を特許出願した場合、発明A1の公開特許公報せいで発明A2の特許を取れなくなることがあります。
他社技術と比べたときに発明A2に進歩性があっても、自社の発明A1に比べて進歩性がなければ発明A2は特許にはなりません。
発明A1の出願公開により、発明A2で特許を取得するためのハードルが上がってしまいます。

発明が生まれたとき、一刻も早く特許出願すべき場合もありますが、開発状況によっては少し待ってから特許出願した方がいい場合もあります。
 

特許出願は情報公開


特許出願をするということは、特許取得の代償として、技術、キーパーソン、開発方針などいろいろな企業秘密を公開するということです。

したがって、特許出願をするときには、特許取得のためにどこまで情報を公開する必要があるかを考える必要があります。
隠しすぎると特許は取得できませんが、権利範囲に関係ないことまでなんでもかんでも開示する必要はありません。

ただし、発明者を隠すことは違法です。

参考:「特許出願をしないリスク」「外国出願をしないリスク