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2種類の従属項:外的付加と内的付加

三谷拓也 | 2025/05/25

従属項の役割


請求項は、特許の権利範囲を定義します。

単独で権利範囲を定義する請求項が独立項(独立請求項:independent claim)です。
独立項は、中核となる請求項です。

独立項に依拠する請求項が従属項(従属請求項:dependent claim)です。
従属項は、独立項の構成を限定します。

通常、特許では複数の請求項が多段階構成をつくっています。


従属項は、独立項と比較して権利範囲が狭くなります。
その代わり特許審査において拒絶理由に対抗しやすく、独立項よりも特許査定を得られる可能性が高くなります。

特許出願では、できるだけ広い権利範囲として独立項を記述し、従属項で「これなら通るかもしれない」「これなら通るはず」「これで通るなら十分OK」といった複数レベルの限定パターンをつくるのが基本戦術です。

従属項には、「外的付加の従属項」と「内的付加の従属項」の2種類があります。
 

外的付加:構成要素を「追加」する


「外的付加」の従属項は、独立項(上位の請求項)に新たな要素を追加するタイプの請求項です。

・請求項1(独立項)= A + B
・請求項2(外的付加の従属項)= A + B + C
という構成の場合、請求項2は、構成要素(C)を請求項1(A+B)に「追加」しています。

たとえば、スマートフォンの独立項が「タッチパネル(A)と表示装置(B)を備える装置」であれば、外的付加の従属項では「加速度センサー(C)」や「指紋認証装置(D)」などを追加します。

特許審査で見つけられた文献(引用文献)が(A)と(B)を開示していた場合、請求項1(独立項)は特許にはなりません。

しかし、請求項2(外的付加の従属項)については、「引用文献には(C)が開示されていない」「(A+B)に(C)を追加することには特有の効果がある」という主張ができるので、特許になる可能性が出てきます。

外的付加とは、発明の最小限構成を独立項とし、そこに構成要素を一つずつ積み上げていく手法です。
 

内的付加:構成要素を「具体化」する


「内的付加」の従属項は、独立項(上位の請求項)の構成要素をより具体的に表現するタイプの請求項です。

・請求項1(独立項)= A + B
・請求項2(従属項)= aX + B (aXはAの限定例)
という構成の場合、請求項2は、請求項1の構成要素(A)を(aX)に具体化(縮小)しています。

たとえば、スマートフォンの構成要素として独立項で「センサー(A)」を挙げた場合、従属項では「加速度センサー(aX)」に限定します。
加速度センサー(aX)は、センサ(A)の限定(下位概念)です。

引用文献が(aY)と(B)を開示していた場合(aYはAの限定例)、請求項1(独立項)は特許にはなりません。
たとえば、引用文献の(aY)が「温度センサー」であれば、温度センサー(aY)はセンサー(A)の一種なので、この引用文献には請求項1(センサー)が記載されていることになるからです。

しかし、請求項2(内的付加の請求項)については「引用文献には(aX)は開示されていない」「(aY)ではなく(aX)を採用することには特有の効果がある」という主張ができるので、特許になる可能性が出てきます。

このほか、
・請求項2(内的付加の従属項)=A + Bであって、Aはa1とa2を含む。
・請求項2(内的付加の従属項)=A + Bであって、AはBの側面に接着される。
のように、独立項の構成要素の構造や状況を具体的に記述する方法も内的付加の一種といえます。

内的付加とは、発明の抽象表現を独立項とし、その抽象度を徐々に下げていく手法です。
 

外的付加と内的付加のバランス


実際の特許出願において、外的付加と内的付加のどちらが多く使われているのでしょうか?

一例として、マツダの特許を最近のものからランダムピックアップして、外的付加の従属項と内的付加の従属項の割合を調べてみました。

・外的付加:18項(15.3%)
・内的付加:100項(84.7%)

22件の特許出願に合計118項の従属項が含まれており、そのうちの約8割が内的付加の従属項でした。

別例として、日本製鉄の場合は下記の通り。

・外的付加:11項(9.6%)
・内的付加:104項(90.4%)

19件の特許出願に合計115項の従属項が含まれており、そのうちの約9割が内的付加の従属項でした。

ついでに、当法人(インターブレイン)についても同様に調べてみました。

・外的付加:40項(28.4%)
・内的付加:101項(71.6%)

30件の特許出願に合計141項の従属項が含まれており、そのうちの約7割が内的付加の従属項でした。

内的付加は外的付加よりも多用される傾向にあります。

「使える特許」になっているか


外的付加も内的付加も、「特許査定になる確率を高める」ためのテクニックです。

とはいえ、従属項をたくさん作ってどれかの従属項によって特許査定に持ち込めたとしても、その従属項が競合製品にプレッシャーをかけられなければ特許としての価値は低くなります。

競合製品が特許侵害を回避しようと考えたときに、
・事実上回避できない。
・回避可能だが回避設計をすると商品性が損なわれる。
・回避可能だが回避設計をすると製造コストが大きく上がる。
といった回避困難性が従属項にもあれば、競合製品にプレッシャーをかけることができます。

競合製品が侵害しそうもない従属項や、簡単に回避設計できる従属項で特許を取得できても、競合製品にはプレッシャーがかかりません。

独立項で最大限の権利範囲を狙いつつ、構成要素の数や抽象度のレベルを変えた複数の従属項を用意しておき、補正によって権利範囲を微調整することで、「特許になること」と「特許として機能すること」を両立できる最適ポイントを探ります。

参考:「拒絶理由対応が、特許品質を決める」「特許の効力の強化と確保