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発明発掘のコツ―「すごい」より「痛い」を探す

三谷拓也 | 2026/09/26
「新しい製品を開発したのに、特許にできる発明が見つからない」ということがあります。

「発明」という言葉には、これまでになかった画期的なものをゼロから生み出すかのようなイメージがあるかもしれません。
実際には、特許実務で扱われる発明の多くは、それほど劇的なものではありません。
 

発明は「生み出す」だけではない


発明の種は、日常の設計、開発、試行錯誤、顧客対応、サービス設計などの地道な歩みの中にたくさんあります。部品の配置、処理の順序、画面の表示方法、操作を簡単にするちょっとした工夫なども、発明になる可能性があります。

新しい発明を考え出すことは大切です。
一方で、製品やサービスの中に存在しているちょっとした工夫を「これは発明かもしれない」と認識することも同じくらい重要です。

小さな工夫を拾い上げ、内容を整理・補強し、特許という資産に変換していく作業を「発明発掘」といいます。

  

発明は見えているとは限らない


発明を宝石にたとえると、三つの見つかり方を考えることができます。

一つ目は、土の上にある宝石です。
発明者自身が発明だと認識しています。課題、構成、効果もある程度整理されています。弁理士はその内容を受け取り、必要に応じて補強します。

二つ目は、土から一部だけ見えている宝石です。
「発明かもしれないが、うまく説明できない」「これが発明と言えるものなのかわからない」というケースです。従来との違い、変更理由などを聞くことで、隠れていた部分を引き出します。

三つ目は、土の中に埋まっていて、まだ誰にも発見されていない宝石です。
開発経緯、設計変更、顧客の使い方、事業の仕組みなどを聞くうちに、製品やサービスに埋もれている発明の種が見つかることがあります。

発明があっても、発明を見る視点が偏っていると、その存在に気づけません。
発明発掘とは、わずかに見えている工夫を引き出し、ときには埋もれた工夫を探す作業です。
 

発明は「すごく」なくてもよい


エンジニアの中には、技術的に高度なもの、開発に苦労したもの、大幅な性能向上を実現したものを「発明」と考える人もいます。
しかし、開発の難しさと、特許としての価値が一致するとは限りません。
わずかな工夫であっても、手をかけてやれば強力な特許になることがあります。

発明発掘では、「すごいか」を考える前に「従来と違うか」を見ます。
その「違い」が新規性・進歩性などの特許要件を満たすかは、あとで検討します。

発明者や知財部にも「発明を見る癖」がある


何を発明として認識するかは、会社や担当者によって異なります。
 
典型的には、以下のような考え方があります。
・中核事業に関連するものなら積極的に出願する。
・性能が大幅に向上しなければ、発明として価値がない。
・外観や数値に表れる変化は評価するが、使いやすさのような主観的な価値は評価しない。
・アルゴリズムはすべてノウハウとして隠すべきである。

なじみのある分野の発明は評価されやすい傾向があります。その一方、異質な発明は評価されにくくなります。評価基準が固定化されてしまうと、価値ある発明が見落とされます。
発明の評価基準が定まっていない会社も少なくありません。評価基準がなければ、知財戦略も立てにくくなります。
また、発明者からの提案を待つだけでは、「発明者本人が発明だと思ったもの」しか集まりません。

発明発掘は、会社や担当者の固定観念をいったん外し、製品や事業を見つめ直す機会にもなります。固定観念を崩して発明のアイデアを広げる方法についてはこちらでも紹介しています。
 

「何がすごいか」より「どこを取られたら痛いか」


発明のヒアリングでは、従来の製品や方法との違い(相違ポイント)を見つけ、ひとつひとつ確認します。

「もし、この工夫を他社に特許として押さえられたら嫌だと思うか」
「この工夫を後日、他社に真似されたらくやしいと思うか」
「この仕組みを使えなくなったら、製品やサービスの魅力が顕著に下がらないか」
「これを別の方法に変更すると、コスト、性能、操作性などに大きな影響が出ないか」
このような質問によって浮かび上がった相違ポイントは、特許として価値を持つ可能性があります。

「魅力的な相違ポイント」だけを探すのではありません。権利化されたときに「痛そうな相違ポイント」も探します。「これ、いいですね」に加えて、「これ、痛そうですね」という視点を持つことが重要です。
「痛そうな相違ポイント」は、製品の特徴であり、競争力の源泉であり、特許候補でもあります。

権利化を考えるときには、他社にとって無視できない権利を目指します。
「これは発明ではないですか」という質問は「ここは痛くないですか」という質問でもあります。
他社目線で製品やサービスを眺めることで、発明者本人が想定していなかった発明が見つかることもあります。

視点を変えると、別の発明が見えてくる


発明を見つけるためには、製品をいろいろな角度から見てみます。
デザイン、構造、データ、設定、操作などに特徴がないかを探します。
省電力、安全性、保守性などの効果があれば、こういった効果につながっている特徴がないか探してみます。
製品を使うときの一連の体験、すなわちUXにも発明が隠れている可能性があります。
事業全体も俯瞰します。製品の特徴を活かしたビジネス方法にも、発明が見つかることがあります(ビジネスモデルが特許になるための条件についてはこちら)。

ものづくりを重視する企業では、構造や制御に関心が集中し、UI、UX、サービス、ビジネスモデルの工夫を見落とすこともあります。
製品を他の製品、サービス、利用者、事業者とどのように結び付けるかという仕組みにも、発明が見つかることがあります。
使いやすさなどの体験価値や、事業上の価値を生み出す仕組みの中にも、発明が隠れていることがあります。

特許対象になる発明にはいろいろなものがあるので、製品やサービスをいろいろな切り口から見つめ直すことが発明発掘の第一歩です。
 

「人が頭を使った場所」をたどる


技術開発では、課題を解決するために多くの判断や試行錯誤が行われます。人が頭を使った場所には、発明が隠れている可能性があります。

たとえば、次のような質問をしていくことで発明が見つかることもあります。
・なぜ、この構成にしたのか
・最初の案から何を変更したのか
・顧客からどのような不満があったのか
・他の方法では、なぜ問題が起きたのか
・開発者には当然でも、実は他社と違うことはないか
・製品に採用しなかった別案はないか

完成した製品だけを見るのではなく、そこに至るまでの判断や試行錯誤をたどります。
開発者にとって当たり前になった工夫は、説明されずに埋もれやすくなります。
特別には見えないことの中から、価値の高い特許が生まれることもあります。
製品としてはボツになった案でも、特許としては価値を持つことがあります。
 

特許になるかどうかは第二段階で考える


発明発掘は、第1段階(発掘)と第2段階(評価)に分けて考えます。

第1段階では、従来と違うところを見つけます。相違ポイント探しです。
第2段階で、権利化の可能性、特許侵害の見つけやすさ、事業における重要性などを評価します。

第1段階は候補を広げる作業であり、第2段階は候補を絞る作業です。

特許になる可能性が低いから出願すべきではない、という判断が常に適切であるとも言えません。
特許になる可能性がそれほど高くなくても、事業への影響が大きく、特許になった場合の価値が非常に高ければ、出願を検討することがあります。いわば「当たれば大きい発明」です。
特許査定率を意識しすぎると、手堅い発明ばかりになってしまいます。また、検討を重ねることで、発明の特許性を高められることもあります。

発明候補をすべて出願する必要はありません。まず発明候補として認識し、評価の対象に載せることが大切です。
最終的に出願しなかったとしても、発明候補を整理して一覧にすれば、自社製品の特徴や競争力が見えてきます。こうやって整理した情報は、商品企画やマーケティングに役立ちます。

見つけた発明に優先順位をつける


発明発掘によって、なるべく多くの発明候補を広く見つけたうえで、出願すべきかを判断します。
判断基準としては、下記のようなものがあります。
・自社事業にとって重要か。
・他社に取られたら困るか。
・競合他社も採用しそうか。
・他の方法では回避しにくいか。
・長期間使用される技術か。
・他社の実施を外部から確認できるか。
・特許になる可能性があるか。
・ノウハウとして秘匿すべきか。
・技術力を社外に示す効果があるか。
 

発明発掘は「発明を資産に変えるスキル」である


発明は、誰かが発明として認識しなければ、単なる日常的な工夫のまま終わります。
他社に真似されてからはじめて「真似したくなるほどの価値があったのか」「なぜ特許を取っていなかったのか」と後悔することがあります。

発明者が自ら発明と認識できるものだけが、会社の発明ではありません。
製品、サービス、開発経緯、UI、UX、ビジネスモデルなど、視点を変えながら見ることで、別の発明が見つかります。
発明発掘では、「何がすごいか」だけでなく、「どこを他社に取られたら痛いか」を考えます。発明候補をたくさん掘り出した上で、特許になる可能性や事業上の価値を評価し、優先順位をつけます。

日々の開発や事業の中に埋もれた工夫を見つけ、「他社にここを取られたら痛い」というポイントを見つけるスキルを磨くことで、発明発掘能力は高まります。

発明発掘は、経験によって身につけ、組織の中で共有できるノウハウであり、スキルです。