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発明の信憑性

三谷拓也 | 2019/05/01
発明とは「なんらかの効果を発生させる新規な構成」と定義できます。
であるならば、発明の信憑性とは「本当にその発明には効果があるのか」ということに帰着します。

発明の効果の説明は、実証型論理型に大別できます。

実証型は「論より証拠」式の説明であり、実験データなどの証拠を示すことで効果の存在(発明の成立根拠)を主張します。
論理型は「風が吹けば桶屋が儲かる」のように論理をつないでいくことで構成(原因)から効果(結果)に至る因果関係を説明します。
 

実証型の発明


 効果が生じるメカニズムが不明でも、特定の構成から特定の効果が生じる証拠があるのなら、発明として成立しています。

 一例として、ある薬に良い効果があるのなら、なぜその薬によって良い効果が発生するのかわからなくても、その薬は発明であるといえます。向精神薬のように薬の発見がきっかけとなって身体の仕組みが解明されることもあります。
こういう発見的な発明の場合、効果を示す証拠データがあれば、メカニズム不明であっても発明の信憑性を示すことができます。

別例として、ある形状の電極を貼り付けたアンテナ素子の設計案をシミュレーション・ソフトウェアで性能チェックしてみたところ、放射特性が向上することがわかったとします。電波工学に基づく理論説明が可能なのかもしれませんが、データが得られたときには良い効果が得られる理由までわからないということもあります。
こういう発明も、シミュレーション・データが発明の信憑性を支えるため、実証型発明であると言えます。

発明のメカニズムについて論理的な説明ができなくても、特許権を取得することはできます。

実証型発明の特許審査は、本当はとても難しいと思います。
出願人が証拠として提出するデータにウソや間違いがあっても審査官がそれに気づくのは至難です。
弁理士も、クライアントが示すデータは正しいと信じて特許明細書を作成します。

もちろん、データの不正・不備が発覚すれば、発明の成立根拠が失われますので、特許権が無効になることもあり得ます。

実証型発明には、効果を示す数値をどう解釈するかという問題もあります。
発明によって性能が2倍になったのなら「大きな進歩」に見えます。
しかし、発明によって性能が2%改善したと言われるとそれは特許権に値するほど凄いことなのかという疑問が出てきます。
2%なんて誤差の範囲なのかもしれないし、2%も改善することは画期的なことなのかもしれません。

論理型の発明


特定の構成から、特定の効果が発生するメカニズムを論理的に説明できる発明もあります。
ソフトウェア発明や電子回路発明の多くはこのタイプです。

たとえば、歩行者と衝突する可能性があるとき、ドライバーに警告する自動車の発明を想定します。
この自動車は、車載カメラで風景を動画撮影し、画像認識により歩行者を特定し、歩行者の位置と移動方向、自動車と歩行者との距離、自動車の走行速度と移動方向などから歩行者との衝突コースにあるか否かを判定し、衝突コースにあるときには衝突までの猶予時間を予測計算し、猶予時間が閾値以内であれば音声等によってドライバーに危険を警告し、それによって、自動車と歩行者の衝突リスクを減らせることができる・・・とそれなりに筋道立てて説明できます。
論理構成に無理がなければ、証拠がなくても、発明が成立しているとおおむね理解できます。

論理型発明は、想像力だけで発明を創出することも可能です。

実証を支える論理


実証型発明であっても論理性をもたせることはできます。

たとえば、液晶素子にいろいろな化合物を追加して発光量を増加させる発明の場合、化合物が発光量を増加させるメカニズムがわからない段階では実証型発明となります。
このタイプの発明をいくつか調べたときには、ほとんどは実験の条件と結果を発明の成立根拠として示す実証型でした。
その中で、ある特許出願では、ある化合物を追加することで液晶の発光量が増加するという事実(実験データ)だけではなく、そのメカニズムについて仮説も述べられていました。仮説なので正しいのかどうかわかりませんが、実験データに加えて仮説も示されると説得力が増します。

論理を支える実証


 論理型発明であっても実証性をもたせることができます。

たとえば、自然言語処理に関連する発明は、新型アルゴリズムがどのように言語を解釈するのかを論理的に説明できます。
この論理的説明に加えて、適合率等の性能指標値が実際に改善したことをデータとして示すことができれば発明の信憑性は高くなるはずです。

ある電子回路発明の凄さをアメリカの審査官に理解してもらうために、高名な大学教授(専門家)にその発明の発想が専門家(プロ)から見ていかに凄いかについて証言書(お墨付き)を書いてもらったことがあります。外部専門家の意見もひとつの実証的説明方法といえます。
 

ソフトウェア発明の変質


ソフトウェアは論理の発明であり、論理的に実現可能な処理であれば物理的にも実現可能なはずですから、発明の内容も論理的に説明できます。

本来、ソフトウェアに謎はないはずです。

 しかし、ディープラーニングをはじめとする人工知能技術の発達により、「論理的に説明できるはず」とも言い切れなくなってきました。
人工知能は、独自に学習し、独自の判断基準を内部的に生成するため、人工知能の判断プロセスを人間が理解しづらくなりつつあります。

ある将棋ソフトは、膨大な棋譜データを解析して強い棋士の大局観を学習し、更には、将棋ソフト同士で対戦を繰り返すことで自らの棋力を強化するといいます。こうやって自己を鍛え上げた将棋ソフト(人工知能)は、最終的にはどういう戦略に基づいて将棋を指しているのかもはや人間にはよく分かりません。

別例として、新曲がヒットするかを判断する人工知能があります。
この人工知能は、膨大な楽曲を学習することにより、ヒットする曲のパターンを見つけ出しているそうです。しかし、人工知能が音楽のどの部分を見て「ヒットする/しない」と判断しているのか根拠がわからないといいます。

人工知能関連発明は、アルゴリズムのブラックボックス化という点において、いままでのソフトウェア発明とは本質的な違いがあります。こういう発明は、ある程度は実証型発明として扱わざるを得なくなるかもしれません。

人工知能を説明可能にしようという研究分野(XAI)もあり、人工知能関連の特許実務がこれからどうなっていくのかはまだわかりません。
その一方、前例があまりない、この先どうなるかわからない技術分野は特許で先んじるチャンスに満ちているともいえます。