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アルゴリズム特許を取得すべきか

三谷拓也 | 2019/05/26
アルゴリズムも発明です。
新しいアルゴリズムを考えたときには、特許権を取得できます。

「アルゴリズム」とは、なんらかの問題を解くための手続き(やり方)をコンピュータによる計算方法として定式化したものです。
たとえば、「自動車の設計データに基づいて、この自動車の走行時の揺れ具合を予測する方法」はアルゴリズムに関する発明です。

以下、アルゴリズムに関する発明を「アルゴリズム発明」、アルゴリズム発明を対象として取得した特許権を「アルゴリズム特許」とよびます。

アルゴリズム特許の弱点


アルゴリズム特許の一番の弱点は特許侵害を発見しづらいことです。
被疑製品(特許侵害が疑われる製品)を観察しても、被疑製品がどういうアルゴリズムで動いているのかを確信できなければ権利行使しづらくなります。
上記例でいえば、被疑製品が自動車の設計データに基づいてなんらかの方法により自動車の揺れ具合を計算しているとしても、特許と同じアルゴリズムなのかがわからなければ権利行使がためらわれます。


特許出願の内容はインターネットで公開されます。
特許出願すると、アルゴリズムを知られてしまいます。他社に技術開発のヒントを与えてしまうリスクもあります。
特許出願には技術流出のリスクがあります。

特許侵害を発見しづらい上に技術流出にもつながりかねないため、アルゴリズム特許を取得しても意味がないという考え方もあります。特許出願したせいでアルゴリズムを真似されてしまい、しかも、権利行使もできないという最悪の状況すら想定可能です。こうなるとなんのために特許出願をしたのかわからなくなります。

したがって、アルゴリズム発明は、特許出願するのではなく企業秘密にしておくという方法もあります。

とはいえ、アルゴリズム特許は意味がないと決めつけるのも早計です。アルゴリズム特許を取得しないという判断がリスクを生むこともあります。

アルゴリズム特許を取得しないリスク


X社はアルゴリズムA1を考えたものの特許出願をしなかったとします。X社はアルゴリズムA1を企業秘密(秘匿)としました。
その後、Y社がまったく独自にアルゴリズムA1を考えたとします。Y社は、アルゴリズムA1について特許出願し、アルゴリズム特許Pを取得しました。

アルゴリズム特許Pが成立すると、X社製品はアルゴリズム特許P(Y社)の特許侵害品になってしまいます。
※「先使用権の主張」「特許Pの無効化」などの救済可能性はありますが、手間もかかりますし納得できるほど救済される保証もありません。

X社は、アルゴリズムA1を独自かつ最初に思いついたにも関わらず、アルゴリズム特許Pの脅威にさらされ続けることになります。X社の特許侵害にY社が気づくとは限りませんが、気づかれたときにリスクが顕在化します。
X社は、特許リスクをかかえている自社製品を販売しづらくなります(良心はやましくないが、法的にはやましい)。
X社がアルゴリズムA1で特許権を取得していれば、Y社に対して断然優位な立場に立つことができたはずです。

また、X社が特許出願をしていれば、Y社はアルゴリズム特許Pを取得できませんでした。
みんながアルゴリズム発明の特許出願を控えると、かえってアルゴリズム特許を取得しやすくなるというパラドックスがあります。

X社は、アルゴリズムA1はありふれたものなので特許出願に値しないと判断した可能性もあります。
アルゴリズム特許に限りませんが、こういうパターンは非常に多い。発明者本人は「大した発明ではない」と特許出願に及び腰だったが、周りにいる人たちに説得されて特許出願することになった、というケースはよくあります(逆のパターンもありますが)。

このようにアルゴリズム特許を取得しないことにもリスクがあります。

特許侵害を発見できるか


上述したように、アルゴリズム特許は特許侵害を発見しづらいという弱点があります。ということは、特許侵害を発見しやすいアルゴリズムであればアルゴリズム特許の取得を検討すべきであると考えられます。

アルゴリズム特許の特許侵害の発見しやすさについては、2つの観点から検討します。

(1)被疑製品を入手できそうか

特許侵害を確認するためには被疑製品を発見し、観察し、解析する必要があります。
企業内部でしか使用しそうもない装置のアルゴリズムの場合、特許侵害を見つけるのは困難です。
一方、外販される装置で使用されそうなアルゴリズムであれば、アルゴリズムを解析できる可能性があります。

(2)アルゴリズムを解析できそうか

どのようなデータが入力され、どのようなデータが出力されているか、データの入出力をチェックするだけで薄々アルゴリズムを推測できる場合があります。
一方、入出力だけでは推測しづらい、何をやっているのか外見からわかりづらいアルゴリズムは解析が難しくなります。
また、シンプルなアルゴリズム特許であれば特許侵害を特定しやすくなります。複雑なアルゴリズム特許の場合には特許侵害を確信しづらくなります。

新型アルゴリズムがわかりやすく、かつ、新型アルゴリズムを搭載した自社製品を外販する場合、他社にアルゴリズムを見抜かれる可能性が高くなります。
自社製品をヒントにして類似品を開発される可能性もありますし、他社にアルゴリズム特許を取得されてしまう可能性もあります。こういう場合にはアルゴリズム特許の取得を目指した方がいいと思います。

秘匿化の注意点


アルゴリズムを企業秘密とするとき、秘密を守れそうか、いつまで守り続けるべきか、についても検討します。

(1)見破られないか


アルゴリズムを企業秘密として管理したとしても、自社製品からアルゴリズムを見破られてしまう可能性があります。見破られる可能性があるのなら特許権による保護を検討すべきです。

(2)漏洩の可能性

企業秘密として管理する場合、アルゴリズムの詳細を知る従業員が秘密を守り続けることが前提となります。従業員が転職・退職する可能性も念頭に置く必要があります。もちろん、アルゴリズムを記載した設計文書へのアクセス制限も必要です。

日々の研究開発活動においてはいろいろなアルゴリズムが発明されます。その中には発明者本人はそれほど凄いと思っていないアルゴリズムもあります。しかし、自己評価と他者評価は別です。
数日後、あるいは、数年後に「発明の価値」が認識されることもあります。自己評価の低いアルゴリズムはどうしても漏洩しやすくなります。

アルゴリズム発明を特許出願すれば、そのアルゴリズム発明には「(特許を求めるくらいの)価値」があるという価値観を組織で共有できるという面もあります。

アルゴリズム特許を取得すべきか

 
このように、アルゴリズム発明は、特許出願をすることにも、しないことにもリスクはあります。
アルゴリズム発明の性質と他社の動向をふまえて、特許出願するべきか、しない方がいいかを考えます。

誰でも思いつくようなアルゴリズムでは特許権を取得することはできませんが、他社がもしかしたら思いつくかもしれないというレベルのアルゴリズムであれば特許出願した方がいいと思います。
むしろ、こういうアルゴリズム特許には価値があります。

誰も思いつきそうもない先進的なアルゴリズムの場合、秘匿化した方がいいかもしれません。
秘匿化しておき、世の中の技術レベルが上がってきたら、いいかえれば、先進性が薄れてきたら特許出願するという方法もあります。
いったん特許出願し、他社が追いついてきそうもなければ特許公開寸前に取り下げ、再度同内容で特許出願をするという手もあります。出願と取り下げを繰り返しながら、他社が追いついてきそうになるタイミングで特許権を取得します。
あるいは「M年後に特許出願する」と決めておき、出願原稿だけ準備しておくという方法もあります。

自社製品等をヒントにして推測されてしまうようなアルゴリズムであれば秘匿化するよりも法的保護を求めた方がいいと思います。

極めて特殊な問題を解決するためのニッチなアルゴリズムの場合には、特許出願をしても他社が興味をもつことはないかもしれません。他社が興味を持たないようなアルゴリズムなら特許侵害が発生しませんので、アルゴリズム特許を取得する意味は薄くなります。

アルゴリズム特許の弱点を克服する


 アルゴリズム特許の最大の弱点は特許侵害を発見しづらいことです。
侵害発見しやすい形式で発明を表現することにより、「侵害発見をしづらい」というアルゴリズム特許の弱点を克服できることがあります。

アルゴリズムは、「入力・内部処理・出力」のセットです。
「入出力」は特定しやすいですが、「内部処理」は外から見えづらいという問題があります。
そこで「何を入力するか」「どのような出力があるか」にフォーカスし、内部処理の詳細に深入りしないように発明を表現します。
入出力を重視した表現ができれば、アルゴリズム特許の使いやすさは格段に向上します。

アルゴリズムの全容を公開しすぎない工夫も必要です。
アルゴリズムA2は、処理K1、K2、K3を含みますが、処理K1、K2だけでも発明が成立し、特許性(新規性と進歩性)もあると考えられるとします。
処理K1、K2は必須構成、処理K3はオプショナルな構成であるとします。
処理K3は商品性・特許性という意味では価値が高いけれども侵害特定しづらいなどの特殊事情があるとします。

こういうケースでは、特許明細書には処理K3を敢えて記載しないことも検討します。
「処理K1,K2」で権利化を狙い、それで拒絶査定になるのなら仕方がないと諦めるという考え方もあります。

以前、アルゴリズム特許ではありませんが、「Nページ目のデータは特許明細書に記載しないでください」という注意書きのついた発明提案書をもらったことがあります。「公開したくないが、弁理士に発明を理解してもらうために伝えるべき情報」という技術情報の丁寧な扱い方に感銘を受けました。 

 アルゴリズム特許は取得すべき/取得すべきでない、と単純に割り切れるものではありません。アルゴリズム発明は、

・発明の性質
・発明の時期

という観点から特許出願の要否を検討します。また、特許出願をするときには、

・記載する内容と記載しない内容

についても検討するべきです。