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休眠特許をどうすべきか

三谷拓也 | 2020/05/30

隠れた負債?


特許権を取得したものの、誰もその発明を使っていない。
このような活用されていない特許権のことを休眠特許といいます。
日本で存続している特許権の半分くらいは休眠特許なのではないかともいわれています。

特許権を維持するためには、特許庁に維持費を支払い続ける必要があります。
企業において、膨大な休眠特許は隠れた負債になっている可能性があります。


以下、休眠特許の対象となっている使われていない発明のことを「休眠技術」とよぶことにします。
また、「発明/技術を使う」とは「発明/技術を事業化する」ことを意味するとします。

休眠理由と使用予定


休眠技術は、かつては使われていたのに使わなくなったものもあれば、最初からずっと使われていないものもあります。
将来、使う予定のものもあれば、使うかもしれないものもありますし、使いそうもないものもあります。

使うかもしれない休眠特許


使う可能性が高そうなら、休眠特許を保有し続けるべきです。

X社は、休眠技術T1について特許権P1(休眠特許)を取得しているとします。
特許権P1は休眠技術T1に関わる技術的・観念的な意味での領地を確保しているといえます。
特許権P1がある限り、他人はこの領地に入ることはできません。
領地さえ確保できていれば、X社はいつでも技術T1を安心して使うことができます。

使いそうもない休眠特許


使う可能性が低そうなら、休眠特許の取り扱いについて検討する必要があります。

(1)それでも保有する

X社は、自社で休眠技術T1を使うつもりはないけれども、他社にも休眠技術T1を使わせたくないのなら、特許権P1を保有し続けた方がいいです。

たとえば、X社は技術T1と技術T2を開発し、技術T2を自社技術として採用したとします。
この経営判断の結果として、技術T1は休眠技術となり、特許権P1は休眠特許となります。

技術T1と技術T2は、液晶技術とプラズマ技術のような代替的な関係にあります。
こういう場合、休眠技術T1は、X社が採用した技術T2の潜在的脅威となります。液晶技術を採用した場合、プラズマ技術は液晶技術の脅威となります。

X社が技術T2を採用したあと、他社が技術T1を採用すると、技術T1が主流化してしまうリスクがあります。
X社は、技術T2を育成する一方、休眠技術T1の育成を阻止する必要があります。

この場合、休眠技術T1の特許権P1は、技術T1を封じ込め、自社技術T2の育成を援護しているといえます。
休眠特許にこのような防衛的意義があるのなら、保有し続けるべきです。

(2)放棄する

休眠特許を積極的に放棄(処分)すれば、特許の維持費を節約できます。
防衛的意義もないのであれば、放棄を検討します。

ある東証一部上場企業を調べたところ1万件程度の特許権を維持していました。
特許権の維持期間などについての公開データを分析し、この会社の特許維持費は年間4億円と試算しました。
外国特許も保有しているはずなので、実際にはそれ以上の特許維持費を支払っていると思います。
特許維持費が圧縮可能な出費であることを知らない経営者も多いはずです。

休眠特許を処分することで知財予算に余裕をつくり、その分を新規の特許出願に充当させれば、特許ポートフォリオを効率的に新陳代謝させることができます。

休眠特許に限らず、特許権を処分するときには、事業と特許権を分けて考える方がいいと思います。
たとえば、事業Aをもうやらないので、事業Aに関わる特許権は全部捨てるという判断をすることがあります。
しかし、こういう特許権の中には、事業Aをやっている他社なら欲しがるような特許権もあれば、事業A以外にも幅広く応用可能な特許権が混ざっていることがあります。

同様にして、事業Bをやっているので、事業Bに関わる特許権は全部残すという判断がなされる場面もあります。
しかし、こういう特許権の中には、事業Bにほとんど寄与していない特許権もあれば、実は事業Bとあまり関係ない特許権もあります。

事業Aの特許権、事業Bの特許権、のように特許権に事業のレッテルをつけてしまうと、とんでもない判断をしてしまうことがあります。

(3)提供する

自社で使わないのなら、他社に使ってもらうという方法もあります。
特許権は、ライセンス(使用許諾)したり、譲渡することもできます。
以下、使用許諾と譲渡をまとめて「提供」とよぶことにします。
提供の対価は交渉次第です。休眠技術の普及を優先させるために無償で提供することもあります。

発明をして特許権をつくるまでには、通常、何年もかかります。
コストもかかります。出願手数料だけでなく、権利化実務に関わる知財人材の人件費はそれ以上にかかります。

技術T3のビジネスをしたいと思っている会社は、他社から休眠技術T3に関わる特許権をまとめて導入すれば、すぐに特許ポートフォリオという参入障壁をつくることができます。

どんな大企業でも、発明をすべて事業化するのは無理です。
製薬業界では、自社の戦略的疾患領域外で有望な化合物を見つけた場合、その化合物を使える疾患に注力する他の企業に積極的にライセンスを与えるといいます。
ロイヤリティ(特許使用料)を稼ぎつつ、経営資源を戦略的疾患領域に集中させます。

大企業(特に研究所)からは、多くの発明が生み出され、多くの発明が休眠化します。
発明者(エンジニアや研究者)は、自分の発明が実現(事業化)されるところを見たいものです。
発明者としても、自社が発明を事業化してくれなくても、他社がその発明を事業化してくれるのなら嬉しいはずです。研究開発の士気向上にもつながります。

中小企業など他社(外部経営資源)に休眠技術を事業化させ、そこから直接的あるいは間接的なリターンを得るという方法もあるのではないかと思います。

アメリカ企業の場合、社内のエンジニアが起業すると、その一部に出資して将来の布石にしておくこともあるそうです。事業が成功したら、その企業を買収し、自社技術として取り込みます(三枝匡「経営パワーの危機」)。

保有特許に目を配る


外部専門家として、企業の保有特許を簡易チェックしたこともありますが、「あきらかに不必要」と感じる負債的な特許権はたくさんあります。もちろん、その逆もあります。

休眠特許を評価し、その取り扱い方法を1つ1つ決めていくのは大変な作業になります。
ある有名企業の知財部の方から、保有特許の棚卸し作業が本当に大変という話をお聞きしたことがあります。

それでも、不必要な休眠特許を処分するだけでも費用節減になるため、この作業はやる価値があります。

参考:「財務諸表に計上されない財産」「攻撃は最大の防御?