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特許は「時間」を稼ぐ

三谷拓也 | 2023/05/06
特許制度とは、技術の独占期限付き国が保証する制度です。
特許は、この独占保証という性質により、時間稼ぎのツールになります。

市場の発見


ある企業Xが、新事業を企画し、新製品を開発したとします。
新製品により、市場(顧客ニーズ)の存在が確認されました。しかも、今後の市場の成長も期待されます。
X社は新しい市場という金脈を掘り当てたかもしれない。


市場が有望であれば、当然、他社も興味をもちます。

Y社は、市場の可能性に注目し、同じ事業への参入を決断するかもしれません。
Y社は、X社の見つけた市場(金脈)を奪うべく新製品を投入します。

こうして、X社とY社による新市場の争奪戦が始まります。


X社としては、新規参入者が来る前であっても技術開発の手を緩めることなく、新市場における技術的優位性を維持するというのが原則的な対応となります。
しかし、Y社に、資本力がある、もともとの技術力が高い、営業力がある、ブランド(知名度)がある、などの武器があると、X社はいずれY社に追い抜かされる可能性があります。

Y社は、日本企業とは限りません。外国企業が市場参入してくることもあります。
市場が有望であればあるほど、自分たちが見つけた市場に他社が本格参入するかもしれないという不安がX社につきまといます。

特許には、X社の将来不安をやわらげる効果があります。

特許で時間を稼ぐ


X社が、新事業の開発成果として特許P1を取得したとします。
こうなると、市場参入を検討しているY社は、製品準備にあたり、特許P1を侵害してはいけないという制約条件を課されることになります。

Y社は、特許P1を分析し、特許P1の侵害にならないような設計案を考える必要があるので、市場参入に手間取ることになります。


特許P1が時間を稼ぐことで、Y社の市場参入を遅らせることができます。
特許P1が稼いだ時間により、X社は市場優位性をいっそう確かなものにできます。

X社は、特許P1で時間を稼ぎつつ技術開発を継続し、新たな開発成果として特許P2を取得します。
こうなるとY社は、特許P1だけでなく、特許P2もケアしなければならなくなり、更に、市場参入に手間取ることになります。
 
X社は、特許P1,P2,P3・・・と矢継ぎ早に開発成果を特許化します。
これらの特許は、他社の追い上げを邪魔する置石(妨害物)として機能します。

X社の特許が回避しづらい(妨害物が大きい)とか、検討すべき特許が多い(妨害物が多い)となると、Y社は市場への新製品投入準備に非常に時間を要することになります。

Y社は、参入コストが高すぎると判断し、市場参入をあきらめるかもしれません。
あるいは、Y社はX社を超越しようとするのではなく、X社と補完的な関係をつくることで新市場での共存共栄を目指す方針に転換するかもしれません。
これならX社にとっても悪い話ではありません。

特許は効いているのか


ほとんどの特許は静かな置石なので、特許が効いているのかどうかわからないことはよくあります。
ライセンス料を稼いでくれるわけでもなく、特許侵害訴訟になるわけでもない特許は「もっているだけ」に見えます。
特許維持にもコストがかかるので、そもそも特許を持つことに意味があるのかという疑念すら生まれることもあります。
ライバルのいない事業の特許ならなおさらです。

もし、ある特許が、人知れず時間稼ぎをしてくれているのなら、その特許には意味があります。
特許権者本人は認識していないけれども、他社にとっては非常に邪魔な特許はめずらしくありません。
特許の効力を本当に意識するのは、本人よりも他人です。

価値のある特許と価値のない特許


このように考えると、自社特許が自社製品をカバーできているかというのは、特許の本質ではありません。
いくら自社製品をカバーしていても、類似製品を作る上で支障のない特許では時間稼ぎにはならないからです。

もちろん、自社事業における有効な妨害物になっている上に、自社製品もカバーできている特許はあります。
一方、自社製品から外れているけれども、他社が意識せざるを得ない特許もたくさんあります。

他社が同じ事業を行う場合に侵害回避設計に手間のかかる特許には価値があります。
たっぷりと時間を稼いでくれる特許が良い特許です。

参考:「鑑定の経済的価値に関する試論」「うらやましがられる特許権