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うらやましがられる特許権

三谷拓也 | 2018/04/22
数は力。
特許権にはそういう面があります。
会社Bの製品Xbが、会社Aの特許権P1を侵害しているかもしれない。こんなとき、会社Bは特許権P1の権利行使を防ごうとさまざまな対策を考えます。しかし、製品Xbが、特許権P1どころではなく、P2、P3、P4、P5・・・も侵害しているかもしれない、こうなると苦しくなります。



抗戦意欲を挫く


製品Xbが特許権P1を回避できている可能性、いわば、安全度が70%だとします。同様に、特許権P2についての製品Xbの安全度が70%だとします。単純計算するなら、製品Xbが特許権P1、P2のどちらも回避している可能性(安全度)は、「0.7×0.7」により約49%になります。特許権P3についての安全度も70%とすると、3件の特許権P1~P3を回避している可能性は約34%になります。4件なら約24%、5件なら約17%、6件なら約12%・・・。

会社Aは、たくさんの特許権を保有することにより、製品Xbを市場から排除しやすくなります。
また、会社A(特許権者)は、会社B(被疑侵害者)に対して多数の特許権をパッケージで権利行使することにより、会社Bの抗戦意欲を挫くことができます。

設計変更を強いる


製品Xbの設計を変更して特許権P1をなんとか回避し、特許権P2も回避するために更に設計変更し、特許権P3を回避するために更に設計変更したら、今度は特許権P1を侵害するリスクが高まってきた・・・ということだってありえます。無理な設計変更は、製品開発の遅れ、コストアップ、利便性の低下といった副作用を生じる可能性があります。

会社Aは、たくさんの特許権を保有することにより、製品Xbの脅威を減殺しやすくなります。

価値を決めるのは他人


会社Aの「複数の特許権により製品Xbを集中攻撃する」という戦略は、「製品Xbを射程範囲に収める特許権が複数存在する」という前提がなければ成立しません。
したがって、会社Aは、将来のライバル製品(この場合、製品Xb)を見据えた特許権を事前に揃えておく必要があります。しかし、これは、かなり難しいことです。

会社Aは、自社製品Xaを企画するとき、製品Xaのコンセプトを守るために特許出願します。まずは、このコンセプトに深く関連する技術的特徴(セールスポイント)をピックアップして特許化します。次に、同じようなコンセプトの製品であれば備えざるを得ない、備えたくなるような技術的特徴も定義し、これも特許権で守ります。コンセプトが魅力的であればあるほど、これらの特許権の価値は増します。

不動産の価値は、「他人が買いたくなるような場所にあるか」に依存します。誰も欲しがらない辺鄙な土地に価値はありません。
特許権も似ています。「他社が(も)使いたくなるようなコンセプト」に関わる特許権は価値が高くなります。

製品Xaのコンセプトが魅力的であれば、他社は製品Xaのコンセプトに沿った二番煎じの製品を作りたくなります。このコンセプトが、多数の特許権によって多角的に守られているとき、他社は類似製品を作りづらくなり、会社Aは自ら企画した魅力的なコンセプトにともなう収益(金のなる木)を守ることができます。

製品と特許はパラレルワールド


ときどき、「このアイディアは、特許出願した頃は自社製品に実装するつもりで重視していたけれども、その後、自社製品に実装しないことに決まったので、特許権はもういらないです」と言われることがあります。とはいえ、自社製品に実装しないアイディアであっても、他社製品に実装される可能性が考えられるのなら、このアイディアに関する特許権には価値があります。
今は実装しなくても、将来の自社製品には応用できるかもしれません。
自社製品に実装されるアイディアであっても、他社製品に実装されそうもない(マニアックな)アイディアであれば、このアイディアに関する特許権の価値は低いと考えられます。
他人にとって魅力的な(=うらやましい)特許権なのか、という視点も大切です。

製品(モノ)と特許権(思想)は深く関連していますが、本質的には別のモノです。

特許権は、数年後に価値がでてくることもあります。「あのとき捨ててしまったあの特許権があれば」「あのときのアイディアを権利化しておけば」ということもあります。

業績好調のときには知財予算が大きくなるので特許出願を大量に行い、業績が悪くなると知財予算を絞られて特許出願が減るというのは一般的な傾向としてあります。しかし、特許権などの知財の本質は超長期型投資なので、開発の進捗状況に合わせて投資額をコントロールする観点も大切なのではないかと思います。