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特許を侵害しているかもしれない

三谷拓也 | 2018/04/03
他社Xの特許権Pを、自社の製品Y(または商品企画)が侵害しているかもしれない、と判明することがあります。開発サイドにとって、突如法的(非生産的?)な話に巻き込まれるのは、憂鬱なことだろうと思います。
ともあれ、まずは、特許権Pを分析し、製品Yの仕様を確認し、どのくらいリスクがありそうかを見積もります。このような検討作業を「抵触鑑定」といいます。抵触鑑定は、企業内で知財部員がすることもありますし、企業外の弁理士がすることもあります。


 リスクを見積もる


第1段階として、特許権Pの「請求項(特許請求の範囲)」により想定される概念(権利範囲)と自社製品Yがかぶっていないかをチェックします。たとえば、請求項に「Aと、Bと、Cを備えることを特徴とする・・・装置」と書いてあり、製品YはAとBを備えているけれども幸いCは備えていない、ということであればセーフです。

言葉(記号)は解釈を通して意味をもつため、請求項も解釈次第でその権利範囲が伸縮します。
たとえば、請求項に「Aと、Bと、Bに隣接するCを備えることを特徴とする・・・装置」と書いてあったとします。こういう場合、「隣接」という言葉をどう解釈するかという問題が発生します。
辞書によれば、「隣接」とは「隣り合う」程度の意味しかなさそうです。この解釈にしたがうなら、CはBに物理的に接触していなくてもよいことになります(広い解釈)。しかし、漢字の雰囲気からするとなんとなく物理的に接触しているようにも見えます(狭い解釈)。
製品Yは、AとBとCを備え、BとCは隣り合っているけれども物理的に接触するほど近いわけでもない、ということであれば特許権Pの権利範囲から逃げられる可能性があります。

第2段階においては、特許権Pを権利化する過程において、出願人がどんな主張をしてきたか(できれば、余計なことを言っていないか)をチェックします。たとえば、出願人が「BとCがくっついているおかげで・・・できる」のような主張をしていれば、特許権Pの権利範囲は「BとCが物理的に接触する」場合に限定されますのでリスクは一気に下がります。

第3段階においては、特許権Pを潰す(無効化)、あるいは、潰せないまでも特許権Pの権利範囲を削ることができるような文献(無効文献)を探します。特許権を無効化する可能性を探る作業を「無効鑑定」といいます。

以上のような検討過程を経て、製品Yが特許権Pを侵害する可能性、いいかえれば、製品Yの抱える特許リスクの大きさを判断します。ほぼ大丈夫ということもあれば、安全度は80%くらいということもありますし(大丈夫だと思うけれども多少の不透明感がある)、どうにもならないほど直撃していることもあります。

抵触鑑定には葛藤があります。
ほぼ大丈夫そうとなっても、100%安全と言い切れることはなかなかありません(もともと、リスクが高そうな事案だからこそ抵触鑑定を依頼されているので当然といえば当然)。一方、リスクが大きいという結論になれば、(心情的には開発の士気を削ぐようなことはやりたくないものの)設計変更を提案せざるを得ません。

リスクへの対処法


製品Yは特許権Pを侵害しているかもしれない、という疑いを払拭できないときの典型的な対策メニューは下記の通りです。複数の対策をブレンドすることもあります。

[対策1]特許侵害をしているという権利解釈もあれば(広い解釈)、特許侵害ではないという権利解釈もあり得ます(狭い解釈)。特許権Pを保有する会社Xが権利行使するときの論理をシミュレートしておき、その論理を崩せるような反論を作っておきます。一般的には、抵触鑑定のときにこのような反論をつくっておきます。強い反論をあらかじめ用意しておくことで、将来の交渉を有利に進めることができます。

[対策2]製品の設計変更をします。抜本的な設計変更がなされればリスクは下がりますが、商品性や納期を考えると大きな設計変更はしづらいことも多いです。設計変更の内容によっては、リスクは下がるけれどもゼロになったとは言い切れないという場合もありますので、このときには対策1との併用になります。

[対策3]特許権Pの特許性を否定できる文献、すなわち、特許権Pの審査官が見つけられなかったような無効文献を探します。無効審判等を仕掛けて積極的に特許権Pを潰しにいくこともありますが、そこまで積極的には動かずに相手方からの権利行使に備えて無効文献を保存しておくことも多いです。相手が特許権Pを行使しようとしたとき、強力な無効文献を示すことで権利行使を諦めさせることができます。対策3も交渉力を高める上で有効です。

[対策4]金銭的な解決です。特許使用料(ロイヤリティ)を支払う、あるいは、特許権Pを買い取ってしまうことでリスクを消します。金銭的解決の交渉をする場合においても、他の対策を用意しておくことは有用です。

[対策5]逆襲できる特許権を探し出します。会社Xの製品を射程範囲に収める特許権Qがあれば、自社と他社(会社X)がお互いに特許侵害をし合っていることになりますからチャラにできます。クロスライセンス(相互に特許利用可能とする契約)に持ち込めば特許権Pにともなうリスクは消えます。そんな都合のいい特許権がなければ、別の会社から会社Xを攻撃できそうな特許権を買ってくるという手もあります。Googleは携帯電話業界に入るとき、モトローラを買収することでモトローラの大量の携帯電話関連特許を手に入れています。モトローラ買収は特許リスク対策だったと言われています。

[対策6]対策しないのも一種の対策です。特許権を行使する方もエネルギーが必要なので、特許権を実際には行使してこない可能性は十分にあります。そもそも、特許権Pを行使したくなるほど製品Yが魅力的なのかという身も蓋もない視点もあります。対策6は、たとえていえば、信号無視みたいなものです。事故に遭うとは限りませんし、実際に事故に遭う確率は低いかもしれませんが、交通法規には違反していますし、危ないことは確かです。抵触鑑定に際しては、特許権者が権利行使をしそうな企業かどうかもチェックします。

※インターブレインの場合、抵触鑑定の料金は、5~40万円くらいです(実績値:案件やオーダーの複雑さにより変動します)。