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非常対応:今日中に特許出願したい

三谷拓也 | 2023/09/18

特許出願完了までに時間がかかる理由


発明の打ち合わせをしてから、だいたい1ヶ月後くらいに特許原稿ができあがります。
「特許原稿を書くのになぜ1ヶ月もかかるのか?」と聞かれたことがありますが、1ヶ月間ずっと書いているわけではありません。
多数のクライアントからの依頼が在庫になっていて、古いものから順番に処理していくので結果的に1ヶ月くらい待ってもらうことになります。
 

特許出願を急ぎたい事情


とはいえ、1ヶ月も待てないという状況もあります。

営業に行くから、記者発表するから、製品リリース前に特許出願していない発明が製品に含まれていることが発覚したから、など事情はいろいろです。
こういうときには、依頼の処理順を変更して優先対応することになりますが、他のクライアントのこともあるので、状況によっては優先対応できないこともあります。

数日すら待てないという状況もあります。

営業上の理由により、明日までに特許出願したいとか、今日中に特許出願したいということすらあります。
今夜、新作ソフトウェアのダウンロードが始まるのでそれまでに特許出願しなければまずいということだってありえます。
他の企業といっしょに新事業をすることになり、相手企業に提案しようと思うアイディアが数十件出てきたので、第1回の合同会議の前に全件特許出願しておきたいということもあります。合同会議のあとで特許出願をすると、単独出願ではなく、共同出願になってしまう可能性があるからです。
合同会議の前に特許出願しておけば、「このアイディアは共同発案ではなく自社発案である」という証拠を公的に残すことができます。

超高速で特許出願


こういう非常事態では、急いで出す特許出願(以下、「高速出願」とよびます)と、高速出願を補強するための特許出願(以下、「補強出願」とよびます)の2段階に分けて対応します。


高速出願は、スピードと証拠性を重視します。
ここでいう証拠性とは、「出願日までにこれだけのことを考えていた」という証拠をしっかりと残すことです。
言われたこと、聞いたことをできる限り網羅します。
特許審査に耐えられるクオリティはありませんが、それゆえに短時間で書き上げることができます。

補強出願では、高速出願を対象として優先権を主張します。
補強出願は、通常の日本出願(国内優先出願)であってもよいですし、PCT出願でもいいです。
補強出願を高速出願の出願日から1年以内に出願すれば、補強出願は高速出願の出願日(「優先日」といいます)にさかのぼって特許出願したかのように扱われます。

高速出願により、優先日(高速出願の出願日)までに「アイディアを思いついていた」という証拠をとにもかくにも残しておき、補強出願により特許審査に耐えられるレベルまで記載を充実させた上で、特許審査に臨みます。

高速出願の書き方


時間をかけられないので体裁にはこだわりません。

日本の特許出願の場合、請求項なしというわけにはいかないので、1つだけ請求項はつくります。
補強出願でどうせ書き換えるので、請求項はまったくラフで便宜的なものにします。
もちろん、時間に多少の余裕があるのならちゃんとした請求項をつくることはありますが、請求項作成に貴重な時間を使うメリットはほとんどありません。

明細書も通常の書き方とは違います。

どうしても時間がなければ、発明のポイントを箇条書きにします。
大事なことは、発明としてわかっていることを漏らさずに書くことです。

図面も、場合によっては手書き図面にします。
「優先日(高速出願の出願日)までに出願人はこういうところまで考えた」という証拠を残すことが最優先なので、発明の分析は不要です。

発明の重要度判断


補強出願では、しっかりと検討時間をかけて書きます。

優先日から1年以内に対応すればいいので、いったん高速出願したあとに案件の取扱い方法について冷静に考える時間ができます。
たとえば、10件の高速出願をした場合、4件はPCT出願し、2件は国内優先出願、3件は補強せずに開示だけにしておき、1件は取下げる・・・のような対応が可能となります。

高速出願さえしておけば、後日、各案件について冷静に価値判断できます。

確実に優先日にさかのぼれるのか


補強出願について優先日が有効と認められるかは高速出願の記載内容に依存します。
高速出願といえども時間の許す限り記載を充実させることは大切です。

審査官は、補強出願を特許審査するとき、優先日までさかのぼれないと判断することはできますが、実際には、優先日を基準として審査する(出願日に関して出願人に有利な解釈をする)のが普通です。
優先日が有効ではないという出願人に不利益な判断をするための論理を構成するのは、それなりに難しいのではないかと思います。

どうしても急ぐときには、高速出願によって特許審査にエントリーしておかなければ特許を取れなくなってしまいます。

ビジネスのスピードと特許実務の両立


発明の多くは一瞬の思いつきです。
思いつくとしゃべりたくなりますし、しゃべって協力者を集めなければプロジェクトが進みません。
社内であれば社外秘にしておけますが、社外となると秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)が必要です。しかし、秘密保持契約を頼むのが難しい場面もあります。
知財部としては、特許出願が完了するまで営業や公開は控えて欲しいと言わねばなりませんが、ビジネスのスピードによってはそんな悠長なことを言っていられないこともあります。

こういうときの最後の手段が、高速出願&補強出願という2段型対応です。

参考:「ブレインストーミングの鉄則」「発明の完成度