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iPhoneの充電コネクタを守る特許

三谷拓也 | 2023/09/03
旅先でiPhoneの充電コネクタをなくしてしまったので、ダイソーで充電コネクタを買いました。
アップル社の純正品ではなく、他社から提供されているiPhone用の互換品です(以下、「非純正品」とよびます)。


非純正品の欠点


この非純正品の充電コネクタを使ったところ、iPhoneの充電ができていませんでした。
欠陥品かと思ったのですが、よく見ると、非純正品の充電コネクタの先端には「UP」という文字が書いてあります。


この「UP」と書いてある面がiPhoneの表側になるように充電コネクタを差し込まないと充電ができないようです(以下、「片方向型」とよびます)。
非純正品の充電コネクタには、「充電できる向き」と「充電できない向き」があります。

一方、純正品の場合、充電コネクタをどちらから差し込んでも充電できます(以下、「双方向型」とよびます)。
双方向型の場合、充電時にいちいち差し込みの向きを確認する必要はありません。
純正品には「充電できない向き」がありません。

便利だが高い、不便だが安い


双方向型の純正品は差し込み時に向きを確認する必要のないので使いやすいのですが、非純正品に比べるとかなり高いです。
片方向型の非純正品は差し込み時に向きを確認しなければならないので使いにくいのですが、純正品に比べると格安です。

非純正品が双方向型でない理由としては、

(1)技術的に難しい。
(2)技術的には可能だが、双方向型にするとコストアップになる。
(3)技術的には可能だが、特許のせいで双方向型にできない

という3つの理由が考えられます。

(1)の可能性は低く、(2)の可能性はあるかもしれませんが、一番可能性が高そうなのは(3)です。

充電プラグの特許


iPhoneを提供するアップル社の特許を調べてみたところそれらしいものがありました(特許第587514号)。いくつか独立項がありますが、請求項1による権利範囲は下記の通りです。

【請求項1】
本体と、
前記本体から離れるように延びるコネクタタブであって、該コネクタタブが、幅、高さ、及び長さ次元を有し、かつ該コネクタタブの形状を定める導電フレームを含み、該導電フレームが、該幅及び長さ次元に延びる第1及び第2の対向側面と、該高さ及び長さ次元に該第1及び第2の側面の間を延びる第3及び第4の対向側面とを有し、該第1の側面が、第1の開口部を有し、該第2の側面が、該第1の開口部の正反対側に第2の開口部を有する前記コネクタタブと、
前記導電フレームの前記第1の開口部に形成された第1の接点領域に前記コネクタタブによって担持された第1の複数の外部接点であって、誘電材料が、該第1の複数の接点の各々を隣接する接点からかつ該導電フレームから分離する前記第1の複数の外部接点と、
前記導電フレームの前記第2の開口部に形成された第2の接点領域に前記タブによって担持された第2の複数の外部接点であって、該第2の複数の接点における各接点が、前記第1の複数の接点における接点の正反対側に配置され、誘電材料が、該第2の複数の接点の各々を隣接する接点からかつ該導電フレームから分離する前記第2の複数の外部接点と、
を含むことを特徴とするプラグコネクタ。

意訳すると、下記のような内容です。

【請求項1】
本体と、コネクタタブ(iPhoneに差し込まれる部分)を含むプラグコネクタである。
コネクタタブには第1面(表面)と第2面(裏面)があり、第1面には複数の接点(第1の外部接点)があり、第2面にも複数の接点(第2の外部接点)がある。
第1の外部接点と第2の外部接点は上下対応する位置にある。

要するに、充電コネクタのコネクタタブの(片面だけではなく)両面に外部接点(電極)をつける、という至極単純な特許です。

双方向型にするためには、コネクタタブの両面に外部接点をつける必要がありますが、それをやるとアップルの特許にひっかかるので、非純正品では双方向型をつくることはできなくなっています。
 

特許で利益率を確保する


iPhoneは累計出荷台数が20億台以上というヒット商品です。
ヒット商品の付属品を作れば儲かります。
充電コネクタについても、非純正品が純正品よりも安ければ「iPhoneの充電コネクタ市場」というそれなりに大きな市場で非純正品が勝つ可能性があります。
 
アップルは、iPhoneだけでなく、充電コネクタも高く売りたいと考えているはずです。
しかし、アップルのファンならともかく、一般的なユーザは同じ性能なら安い方を買います。
アップルは、双方向型の充電プラグについて特許を取得することにより、非純正品に「不便」を強いています。

アップル特許により、
・純正品は高いけれども、使いやすい。
・非純正品は安いけれども、使いにくい。
という構図を作り、iPhoneのユーザが非純正品に流れるのを阻止することで、アップルの利益を確保しています。

アップルは、この発明についての特許を、日本以外にも、アメリカ、中国、カナダ、メキシコ、欧州、ブラジル、韓国、マレーシア、ロシア、シンガポール、台湾などにも出願しています。
これだけたくさんの国に特許出願をすると特許費用はそれなりにかかっているはずですが、iPhoneの充電コネクタ市場において特許により確保できる利益に比べれば大した金額ではありません。

双方向型の非純正品が出てくれば特許侵害として差止めができますし、特許使用料(ロイヤリティ)を支払わせれば非純正品からでも利益を吸い上げることができます。

アップルは、特許を使うことで、本来は安価に販売できるようなローテク製品をその数倍の価格で売ることで、たっぷりと利益を稼いでいる、という推測が成り立ちます。

参考:「雪見だいふくを守る特許」「特許は何を守っているのか