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基本特許を取られても逆転は可能

三谷拓也 | 2020/11/03

基本特許と改良特許


まったく新しい製品やサービスは、まったく新しい市場を切り拓きます。

パイオニア型の発明(基本発明)を広く守る特許権を基本特許といいます。
コンセプト自体が新しいので、権利範囲の広い特許権を取得できます。
基本特許は、その製品を作るためには使わざるを得ない絶対必要な特許です。

基本発明が有望であれば、基本発明をアレンジする改良発明がたくさん出てきます。
改良発明を対象とした特許権を改良特許(周辺特許)といいます。
改良の度合いは、大幅なものから些細なものまでさまざまです。

画期的な基本発明が出てくると、そこから膨大な数の改良発明が続々と生まれる、というのは技術創発の典型的なパターンです。


大企業の発明の多くは改良発明です。
大学やベンチャー企業から出てくる発明には基本発明が多いです。

切り拓く基本発明


基本発明の例として、X社が「自転車」というものを初めて考えたとします。
X社は、「2つの車輪とハンドル、ペダル、サドルを備える自転車(以下、「基本構成の自転車」とよびます)」として特許権PXを取得したとします。
自転車が存在しない世界ではじめて自転車というコンセプトを考えたので、特許権PXは基本特許です。

X社は、特許権PXがあれば自転車を独占販売できます。

追随する改良発明


数年後、Y社は自転車にライトを取り付けることを考えたとします。
Y社は、「基本構成に加えて、ライトも備える自転車」として特許権PYを取得したとします。
この発明は、自転車というコンセプトの改良であるため、特許権PYは特許権PXの改良特許です。


条件付きの特許権


X社は、基本特許PXがあるので、Y社が改良特許PYを取得しようとも、相変わらず自転車を独占販売できます。
ただし、X社が自転車にライトを搭載したら改良特許PYの特許侵害になりますので、ライトをつけることはできません。
事業に支障がでるわけではないけれども、X社は改良特許PYを気にしておく必要があります。

一方、Y社は、改良特許PYを取得しても自転車を販売できません。
「基本構成に加えて、ライトも備える自転車(改良特許PY)」を製造販売することは「基本構成の自転車(基本特許PX)」を製造販売することでもあるので、基本特許PXの特許侵害になるからです。

改良特許PYは、基本特許PXを「利用している」といいます。
改良特許PYは基本特許PXに制約される条件付きの特許権です。
Y社は、基本特許PXを使わせてもらえるようにX社にお願いしなければなりません。

X社に改良特許PYを使わせる代わりに、Y社は基本特許PXを使わせてもらうという取引を持ちかけることは可能ですが、交渉の主導権はX社にあります。
Y社にとって基本特許PXは必須ですが、X社にとって改良特許PYは必須ではないからです。

立場の逆転


やがて基本特許PXが切れると、X社による自転車の独占時代は終わります。
独占時代が終われば、誰でも「基本構成の自転車」を作ることができるようになります。

Y社は、改良特許PYに基づいて「基本構成に加えて、ライトも備える自転車」を独占販売できます。
X社は、「基本構成の自転車」を製造販売することはできますが、独占はできませんし、ライトを取り付けることもできません。

ライト付きの自転車を販売できるのはY社だけなので、X社の自転車はY社の自転車に商品性で勝てません。
基本特許PXに安住していたX社は、せっかく作り上げた「自転車市場」をY社に奪われてしまいます。
 

大量特許の圧力


Y社は、自転車の改良特許を大量に取得するかもしれません。
たとえば、ペダルの形状のバリエーション、ハンドルの材質、パンクの修理方法、補助輪、夜間視認性のための反射板、反射板の形状のバリエーション・・・など、1つの基本発明からは大量の改良発明をつくり出すことができます。

X社は、Y社が自転車に関する大量の改良特許を保有している場合、自転車の改良をしづらくなります。
少しでも改良しようとするとY社の改良特許にぶつかるからです。
Y社は改良特許を大量取得することによりX社との交渉力を高めることができます
X社としては、大量の改良特許という脅威を取り除くため、基本特許PXをライセンスすることでY社と市場を分け合うという判断を早めにした方がいいかもしれません。

基本特許に安住してはいけない


X社は、自転車を発明したあとも改良を続け、改良特許をY社よりも先に取得し続けるべきでした。
自転車を発明したX社は「基本構成の自転車」の改良すべき点について、誰よりも先に気づくことができる立場にあります。
基本特許があるから安心というものではなく、基本特許を取ったあとも改良特許を取り続けることで先導的立場を守り続ける必要があります。

ベンチャー企業や大学では、基本特許だけ取得して終わりというパターンが多々見受けられます。
どんなに優れた基本特許を取得できても、基本特許に安住していると事業基盤はいずれ掘り崩されます。
パイオニアとしての地位や評価(ブランド)を守りたいなら、改良を継続し、継続の結果として生まれる小さな成果をコツコツと改良特許で守り続けていくべきです。

参考:「発明の完成度」「野口五郎さんの特許戦略