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発明の3つの才能

三谷拓也 | 2023/06/11
弁理士は、いつも新しい発明に出会います。

これはすごいと最初からわかる発明もあれば、発明者と話しているうちにすごいかもしれないと思う発明もあれば、特許明細書の文章構成を検討しているときに発明のポテンシャルをじわじわと感じることもあります。


発明の才能には、

1.発明を思いつく才能
2.発明に気づく才能
3.発明を説明する才能

があります。
 

発明を思いつく才能


発明を思いつく才能とは創造の才能です。
発明を思いつく才能には、課題を解決する才能課題を見つける才能違うやり方を見つける才能などがあります。

・課題を解決する才能

他の人にも認識されているが解決されていない課題を解決してみせる才能です。

白熱電球の寿命を延ばすために、エジソンはさまざまな材料を試して白熱電球を実用化しました。
白熱電球の寿命が短いという課題は、世の中で認識されていました。
エジソンは、この世界的な課題に対して最初の解答を与えたといえます。

半導体の製造不良を減らしたい、アンテナの放射特性を改善したい、炭素繊維の製造コストを減らしたい、など世の中にはたくさんの課題があります。

課題は一気に解決されることもありますが、多くは少しずつ解決されます。

強く解決を求められている課題ほど、その課題を解決する発明の価値は高くなります。

たとえば、テレビの解像度をもっと大きくしたいという課題は、それほど求められていませんので、テレビの解像度をさらにアップさせる技術が発明されたとしてもそれほど価値は見込めません。

・課題を見つける才能

誰も気づかなかった課題を掘り出す才能です。

二本指を開く動きでスマートフォンの表示倍率を拡大するユーザインタフェースの発明は、スマートフォンの表示が小さくて見えづらいことがあるという課題の認識があってこそ成り立ちます。
あるいは、拡大ボタンなどの表示倍率調整専用インタフェースを使うのはめんどうくさいという課題が認識されたのかもしれません。

問題のなさそうな現状に不満を見つけるというのがひとつの方法です。

コンピュータゲームの発明には、こうしたらおもしろいのではないか、プレイヤーの心が揺れるのではないか、という気づき(仮説)が起点になることが多くあります。
もしかしたらこうなのかも、こうしたらこうなるのかも、という仮説も発明につながります。

課題は現場で見つかります。
自分で実際に製品を使ってみたときの感覚や、お客さんの感想や事情によって課題に気づき、発明に至ることはよくあります。

課題発見型の発明は特許になりやすい発明です。
課題を見つけるのが上手な人は、特許を量産します。

・違うやり方を見つける才能

ある状況で実現されている機能を、別の状況において実現する才能です。

ウィンドウズなどのOSはソフトウェアによってつくられますが、電子回路(ハードウェア)でもOSをつくることができます。
ハードウェアOSは、ソフトウェアOSに比べると柔軟性や拡張性では劣りますが、ソフトウェアが介在しないので高速処理が可能になります。

カプセルトイ(ガチャガチャ)は昔からありましたが、これをコンピュータゲームの一部としてソフトウェアで実現するというのもこのタイプの発明です。

発明に気づく才能


発明者本人は発明をしたとは思っていないこともあります。

技術に詳しい人ほど、発明をしても「発明といえるほど大したものではない」と思ってしまうことがあります。
あるいは、いいものを考えたと思うけれども、これが発明として認知されるようなものだとは思わなかったということもめずらしくありません。

設計上のやむを得ない理由から、CPUに内蔵されるレジスタに外部回路からデータを書き込まざるを得なくなったとします。
このとき、CPUのレジスタに外からデータを書き込むようなことは誰もやっていないんじゃないかと気づけば、これは発明です。
レジスタに外部からデータを書き込むという処理の効果を論理的に説明できれば、特許になります。

パチンコの大当たり演出が特許になることもあります。
大当たり演出では、大当たりになるかもしれないというプレイヤーの期待感を高めるために演出画面上でいろいろな動画像が表示されます。
新機種の大当たり演出には、今までの大当たり演出にはない独特の雰囲気があり、ここにはきっと発明があると感じるセンスは、発明に気づく才能です。
発明があると感じたら、新しい大当たり演出によってなぜ、どのようにして心が揺さぶられるのかを分析することで発明が抽出されます。
発明を抽出し、特許にできれば、自社の資産になります。

ある装置を見学させてもらったときのことです。
同行していた知財部員が技術者に「ところで、ここはなぜ2画面になっているんですか?」と質問しました。こういう装置で2画面というのは見たことがないのでピンと来たんだろうと思います。
この気づきがきっかけとなってヒアリングしたところ、2画面にしたのはいろいろな事情(課題)があり、この課題を解決するために画面を分けたようです。
新規構成であり、そのような新規構成とすることについて納得できる理由があるのなら、特許を取ることができます。
これも発明に気づく才能です。

特に、ユーザインタフェースの発明は、発明の存在や価値が気づかれにくく、こういう発明を資産化するためには発明に気づく才能がきわめて重要です。

発明を説明する才能


この発明があれば、どんないいことがあるのかという未来のイメージを伝える能力です。

よい発明をしても、発明のよさを伝えられなければ、予算はつきません。
それほどよい発明でなくても、あるいは、発明が未完成であっても、わくわくするようなイメージを上手く伝えることができれば発明は実現されます。

ドローン自体は単なる無人航空機ですが、ドローンでできることを説明すれば、ドローンに対する印象も変わります。
たとえば、ドローンは荷物を配達できるので、人手不足が解消する、配達料金が下がる、配達量を増やせる、僻地でも荷物を配達できる、道路渋滞などの影響を受けない・・・というドローン・ビジネスのメリットを説明すればドローンに対する肯定的なイメージをつくることができます。
あるいは、ドローンであれば樹木の種子を山奥に運べるので、ドローンをつかって種子を山肌に撃ち込むことにより高効率で植林ができるという説明があれば、ドローンに環境保護のイメージを結びつけることができます。

発明をお聞きするときに、この発明があればどんな未来になるのかというお話をしていただけると、弁理士としても発明の価値を理解しやすくなりますし、モチベーションも上がります。

発明を説明する才能とは、説明者本人が発明の価値を信じる才能なのかもしれません。
説明が下手でも情熱は伝わります。
相手が、ちょっと疑わしいけれども、あるかもしれない、いいかもしれない、という気持ちになったら半分くらい成功です。

みんなにわかりやすく伝えることで、支持者が増えていくと、アイディアはだんだんリアルになります。

参考:「ブレインストーミングの鉄則」「アイディアの出し方(3)