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請求項は広ければいいのか

三谷拓也 | 2020/01/26

余計なお世話


数年前、ある大学の教授から、自分の発明の特許出願(審査中)について「請求項1は拒絶理由を通知されたが、請求項2(従属項)は特許になりそう」という話を聞きました。

出願書類を拝見したところ、請求項1はあまりにも広すぎ、確かに特許査定にはなりそうもありません。
逆に、請求項2は限定事項だらけで、これならほぼ確実に特許査定になるだろうと思いました。とはいえ、請求項2は権利範囲があまりにも狭いため、特許査定になったとしても特許侵害は発生しなさそうです。


第三者的な立場としては、請求項1は欲張りすぎなので特許を取得できない、請求項2は妥協しすぎなので特許を取っても意味がない、もう少し合理的な権利範囲があるはず、と思いました。

このままだと無価値の特許権になってしまいそうだったので、「請求項1はともかくとして、請求項2よりも広い権利範囲を狙えますよ」とアドバイスしようかと考えました。でも、先生は「特許権を取れそう」と嬉しそうです。
せっかく特許権を取れそうと喜んでいるのに、いまさら水をぶっかけるような話をするのは余計なお世話なのかもしれません。

先生としては特許権を取得できれば実績になります。余計なチャレンジをして特許権を取得できなくなったり、特許権の取得に手間取るのは困るかもしれません。

とはいうものの、大学としては、コストも工数もかけた挙句、無価値な特許権を取得することになります。大学は損をしているともいえます。

特許で稼ぎたい、競合を排除したい、という目的に沿おうとするなら、権利範囲を少しでも広げる努力をすべきと思いますが、そうではない案件もたくさんあります。

特許出願のいろいろな事情


ベンチャー企業の場合、「たくさん特許出願している」「たくさん特許権をもっている」という外形的実績により技術力をアピールすることで投資家を引きつけたいことはよくあります。
投資家は、だいたい、特許権の質については関知しません(これはこれで問題だと思いますが)。プライベート・エクイティ・ファンドでデューデリジェンス(企業とその資産の調査)をされている方からも「投資判断において特許はブラックボックス(よくわからない)」とお聞きしたことがあります。

ある中小企業の社長さんから「銀行から融資を受けやすくするための特許出願なんですよ(特許権を取れなくても構わない?)」という「本当の気持ち」を示唆されたこともあります。

技術公開(公知化)のための特許出願をすることもあります。
特許権は必要ないけれども、他社が同じような技術で特許権をとってしまうと困るので、公知の技術水準を引き上げるために特許出願をすることもあります(防衛出願)。

「特許明細書を設計文書(社内の共有知識)として使うつもりなのでそのつもりで書いて欲しい」と言われたこともあります(特許権を取れなくても構わない?)。

急いで特許権を確保したいこともあります。こういう場合、非常に狭い権利範囲にして、拒絶理由なしでの特許査定(一発査定)を狙います。
首尾良く特許権を取得できたら、分割出願をしてもう少し広い権利範囲にあとでチャレンジするという戦術もあります。

弁理士は、職業的習性として、少しでも広い特許権をつくろうとします。しかし、弁理士としての信条に固執すると、クライアントが本当に望んでいることから乖離してしまうこともあります。

質と量


1件の特許出願にしっかりと手をかけて高価値の特許権をつくりたいという質重視の考え方もあります。
1件1件に工数もコストもかけずにたくさんの特許権を揃えておきたいという量重視の考え方もあります。
質と量のどちらに重点を置くかはクライアントによっても違いますし、同じクライアントでもビジネス環境の変化や成長過程において志向が変化します。
質重視と言いつつも実質的(本音的)には量重視のクライアントもいますし、代理人(弁理士)の提案に任せるクライアントもいます。

いくら優秀な基本特許を持っていても雑兵のような特許権の大軍に圧倒されることもありますので、量重視がダメというわけでもありません

クライアントの事情を推測し、それによって対応を変える柔軟性も大切です。
あるクライアントにおいて評価された手法が別のクライアントからは歓迎されないこともあります。

基本となる共通項はあるものの、実務上は、クライアントの数だけベストがあるともいえます。

参考:「なぜ、特許を取る必要があるのか」「特許明細書は長い方がいいのか